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話拡げるんじゃなかったと後悔するものの、これからここで働くには、それぞれの役割を知ることは必須だ。
もう嘆いても仕方ない。
仕事なんだと割り切り、咳払いを一つして前を向く。
「勉強不足で申し訳ないんですが、皆さんの担当コラムなんかも教えて頂けませんか?」
決心したものの、まずは話を聞いてくれそうな梶浦さんを見つめる。
だって東雲さんは編集長だから恐れ多いし、真野さんはなんか怖いし。
「・・アンハト読んだことない?」
しかし食いついてきたのはあろうことか真野さんだった。
しかも、なぜか不機嫌そう。眉が片方上がってらっしゃる。
「あんまり、縁のないジャンルだったもので・・」
「女性読者めっちゃ多いんだけどねー。ホントは読んでるんでしょ?ナイショにしとくから!」
横からヤジが飛ぶけど、聞こえないふりをして真野さんに向き直ると小さく肩を竦められた。
なんだろう『このガッカリしたよ』みたいな態度。
「興味なくたって、うちで出してるもんは一応目通した方がいい。どういうネタが受けてるかわかるし、取材なんてのはやる方の手腕でいくらでも引き出せる。そのテクニックも、読んでりゃ身についてくるから」
淡々とした口調で真っ当なことを言われ、すみませんとしか返せない。
すると真野さんは、意外にも表情を和らげ「俺も路地裏読んでたよ」と呟いた。
「普段スポットの当たらない店を特集するのはありがちだけど、いろんな職種なのが良かった。自転車修理店のマップは会社員には助かるよな。
ライター視点の記事に留まらず、利用客の声も写真付きであげてるから信用できる」
「あ・・ありがとうございます」
「見習って、大人の玩具専門店マップ載せたら当たったっけな」
「意外と、一つの街に一件はあるよね~」
真正面から評価され、照れくさくなる。
耳に入ってくるいらない情報は置いといて、もう一度梶浦さんを見ると、まだ私に慣れないのか苦笑いしながら今月号のアンハトを差し出してきた。
まさに、編集長のバイブルという男女が表紙のアレである。
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