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「馬鹿なこと言わないでくださいよ」
そりゃライターが質の良い記事を書くには、身体を張るのはつきものだろうけど、いくら成人向けとはいえそこまでやらせる?
しかも男ばかりの編集部で。
仮に女性しかいなかったとしても、自分でラブグッズを使って記事にするなんて恥ずかしくて出来るわけない。
家族や友達に『今どんな記事書いてんの?』って聞かれたらどうするのよ。
未だに、ここがホントにアンハトの編集部なのか疑ってたけど、この配慮のなさでようやく信じられそうだ。
「馬鹿・・?」
呆れた視線もこめて言い返すと、最初に反応したのは真野さんだった。
「馬鹿とは?」
「え・・だって、普通に考えて無理ですよ・・」
これ以上いくとセクハラとみなすと思いつつも、真野さんがあまりに真剣に食いつくから、反論しにくい。
なんで私が睨まれてるの?むちゃブリしてるのはそっちだよね、と心の中では叫びまくっても、口からは「だって・・・だって・・」しか出なくなる。
数度ほど下がった空気を受け、梶浦さんが真野さんをたしなめるけど、聞く耳持たれてない。
「女の身体は女が一番わかるだろ。真実を書くことの何が馬鹿なんだよ」
「そ、それはわかりますけど、やれって言われてホイホイできる内容じゃないですよね?」
「じゃあどんなことなら出来るんだ?」
「・・・女性なら特に気になること、例えば身体の不調や避妊についてとか、真面目な記事じゃ駄目なんですか」
息を吐きながら問う真野さんに、なんか、逆に馬鹿にされたように感じつい口調がきつくなってしまう。
咄嗟に思い付いた内容を叩きつけるように言えば、今度は東雲さんが「ああ・・」と呟き、椅子にのけ反った。
「それもうやってる」
「え?」
「毎月お医者さんのコラムも載せてるんだよん。ほら」
今次さんが開いたページには『産婦人科ドクターのお悩み相談』が載っていた。
今月のテーマは「子宮」?・・分泌物の正体や月経異常・・
「ぶっ飛んだだけで終わらせるのもどーかっつって、東雲さんが知り合いのお医者さんに頼んだんだ」
「こういうのもしっかり学んでこそ、行為に勤しめるからね」
なるほど、なかなかしっかり考えてる、これも売れる要因か・・って感心してる場合じゃない。
むちゃぶりを回避するための一世一代の企画が光の速さで失われ、私の背中に汗が流れていく。
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