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時間に余裕がある朝は、歩く速度を落として左右の街並みを眺めてみよう。
荷物の少ない帰り道は、普段行かない店の扉をくぐってみよう。
人生をもっと充実させる秘訣。
それはいつもの道を一本変えるだけで見つかるかもしれない。
「というコンセプトで始めた、路地裏の小さな秘密ももう2周年だ。脇道の個人店や小さい商店街にスポットを当てれば面白そうっていう読みが当たって、隔月にしちゃなかなかの売上。
毎回身一つでどこまでも取材に行ってくれる小見ちゃんにはホント感謝してるよ」
かんぱーい、とグラスをぶつけられ、まんざらでもない笑みを隠しきれないまま頭を下げる私。
一口、二口と喉を潤すスピードが、向かい側でグラスを置いてしまった野上編集長を見てだんだんゆるんでいく。
「飲まないんですか?」
「あ・・ああ、そうだな」
匂いだけで酔ったのかと心配になるほど、青白い顔をして俯いている。
いつもは誰より早くグラスを空けるくせにと首を傾げると、編集長は急にバッと顔を上げ、わざとらしく笑った。
「今日は記念日だもんな!小見ちゃんも遠慮せず頼んで!」
廊下まで届くほど大きな声を出し、今度は勢いよく飲み干してしまう。
「ちょっと、編集長。私への労いだって言うのに、自分が先酔わないでくださいね?」
「そうだなあ、お前が主役だもんな」とよくわかんないことを呟きながら、編集長は私の目は見ずに叩ききゅうりをさらに叩き割り出した。
・・・思いつめてそうでヤバいなあ。
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