1014人が本棚に入れています
本棚に追加
全国各地の小さな地域にスポットを当て、地元民しか知らないような老舗や遊び場を紹介するという我が社で可もなく不可もなく程よい売上の娯楽雑誌・路地裏の小さな秘密。
創刊2周年の記念にパーッとやろうと言われ、いきなり呼び出された時から少し警戒はしていた。
人が良いが調子も良いこの野上編集長は、最近奥様の不審な動きに思い悩んでると噂されていたから。
この間も女性誌の浮気チェック特集を食い入る目で見ていたし、あてつけに私が選ばれたんだとは思いたくないけど・・
大体、路地裏のライターは4人いるのに、いくら今日の予定が合わなかったといえ私だけを労うっていうのもおかしい。
飲み会なら明日でも明後日でもいつでも開けるんだけど。
その中で独身女は私のみということ、そしてわざわざ個室を予約したこと・・不安はますます駆り立てられる。
「・・小見」
「は、はい?」
編集長が誰かを呼び捨てにするのは、年に数回しかない真面目な話か、組んでいる先輩の原稿が大幅に遅れ連帯責任で怒られる時だけだ。
グラスを置いて聞く体制をとると、まず返ってきたのは深いため息だった。
「男と女の中ってのは単純でいて深い」
「・・・はあ」
「でもやっぱ単純なんだよ。冷え切ってた中に、新しい刺激を放り込んだら女はすぐ手を伸ばす」
やっばあ~語りはじめちゃった。
なに、それ奥さんのこと?編集長との関係に冷えてて、若い刺激的な男に掴まったとか?
「男も、もっというなら俺もそうだ。路地裏の言うとおり、視点を変えりゃ人生を充実させる秘訣なんてすぐそこに転がってるんだよな」
ちら、と私を見上げ、どことなく熱っぽい目線を送る編集長。
ホントにまずい方向に行きそうで「そうですねえ」と当たり障りなく返しながら、出口のルートを探す。
戸口は編集長側にあるけど、最悪正当防衛ということで膝を繰り出せば・・
「マンネリ解消に、ちょっと違う夜の営みをしたらもう病み付きで・・三人目欲しいな、なんて言いだすようになっちまった」
・・・は?
最初のコメントを投稿しよう!