恋に向いてない

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「痛くないようにしてやるからさ、俺とも一回ヤってよ。女はどんなのでもイけても、さすがに男は無理?」 「い、石津……」 「頼み込んでセックスしてもらうなんて、我ながら最低。でも恋ってさ、こんな風にみっともなくて、なのに欲しがるのをやめられないんだよ。ホントどうかしてるよな」  いつの間にか息が上手くできなくなっていた。水の中から息継ぎするみたいに、一紀は顔を上げて肺をふくらませた。石津はまだ息を詰めて一紀を見つめているに違いなかったが、とても目を合わせる勇気は無かった。 「どけよ、石津」 「ヤらせろ」  背けた顔に視線を感じる。頬に唇、うなじと、じりじりとした疼きが這い回るように一紀を苛む。 「俺だって本気だ。それとも鼻水垂らして泣いて縋れば頷いてくれるのか?」 「そういうことじゃないだろ」  石津は自分のポケットからジッポを取り出すと一紀に見せつけた。 「それ……無くしたと思ってた」 「俺が盗んだんだ。お前の物が欲しくて」  石津は一紀の目をまっすぐ見つめたままジッポに口づけた。その目が自分の本気を分かれと要求している。その瞳の色が、自分の初めてを貰ってくれないかと涙ながらに頼んできたあの女の子の目となぜかダブった。     
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