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強気な言葉のくせに張りつめた石津の空気は、びいどろのオモチャみたいに少しでも粗末にしたら割れてしまいそうに感じられた。
「泣き落としとかすんなよ」
「まさか。そっちこそ俺がホモだって言いふらす気だろ? こっちはそんなこと織り込み済みで告白してんだ。なめんな」
「本気で好きだって気持ちを、オレは粗末にするつもりはない」
「じゃあ、どうするっていうんだよ」
石津に挑むように顔を覗き込まれて、情けないほど小さな声で答えたのは「痛くすんなよ」という言葉だった。
「……やっぱりお前、残酷だな」
泣かないと言ったくせに、くしゃりと顔を歪めて石津が唇を押し付けてきた。思ったほど嫌悪感はなく、ただやたらと緊張した。数だけなら相当こなした自信はあるのに、こんなに体が固まったように動かないのは初めてだった。
筋肉質の長い腕がテーブルの上に残っていた、最後のジェロ・ショットのカップを手にした。
「無理……もう入んない。やだってば石津っ」
酔って力の入らない一紀の身体は石津の手を払うことが出来ず、幾度も繰り返された卑猥な行為をまた受け入れるしかなかった。
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