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恋に向いてない
「勇者! いや、神だな!」
背中を何度も叩かれて、口を付けていたビールが零れた。
以前なら、何も言わなくても女子がハンカチを差し出してくれたものだけれど、今は七人全員が一紀(かずき)を無視している。
「ティッシュもらえる?」
箱ティッシュは女子たちが固まって座っているソファの脇にある。仕方なく声を掛けたら、いかにも渋々といった様子で渡された。
部屋が広いからと、サークルの連中が勝手に一紀の部屋で忘年会をすることに決めてしまったのはかまわない。しかし家主の肩身が狭いのは理不尽な気がする。
「まぁまぁ、しょうがねぇよ」
サークル仲間のタツヤが慰めてくれたが、顔がニヤついている。
「顔がイイくせに、断わることを知らないヤリチンだとは思ってたけどさ。まさか”朝青竜”とヤるとはね。さすがにあいつらのプライドが許さねぇんだろ」
「そのあだ名よせって。文学部のあの女の子とあいつらとは関係ないだろ」
軟派な遊びサークルの女子は派手な子が多く、朝青竜似のあの子みたいな地味なタイプとは口もきいたことがないに違いない。
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