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「 …とれた!!」
ゼノ君も、見事麦わら帽子でトゥルナを捕獲しました。
私の目の前にババン!と同じように見せ付けて来たので、私も見せつけます。
そして、お互い勝利の余韻に浸りながら暫く笑いあった後、私はおもむろに釣竿の糸の先の針を手に取りました。
「 ずっと思ってたんだけど、それ、何に使うんだ?」
「 これはですね…こうするのですよ。…ごめんなさい!」
グサッとトゥルナの背中から針を突き刺しました。
「 うっ?!」
それを見たゼノ君が硬直しました。
「 お、お前…酷いことするな…」
「 しょうがないのです…私達の晩御飯の尊い犠牲なのです。」
そう言っても、勿論よくわからない…と言う顔をしたゼノ君が、私の手元と自分の手元を見比べて、慌ててトゥルナを離しました。
うぅ…なんだか、本当に自分が残虐な人間のような気がしてきました…
確かに、やった事は残虐でしたが。
「 気持ちを切り替えて行きましょう。…実は先ほどからめぼしい場所は決めてあるのです……ここら辺でいいでしょうか?」
私は、少し沼が深くなってそうで大きな岩の影がうっすらと見える場所に移動します。
そして、腰を下ろします。
隣にゼノ君も、少し私と距離を置いて座りました。
…ショックです。
「 では、いきますよ…!…それっ!!」
私がキャスティングすると、狙いとは少しズレてしまいましたが、なかなかいい場所にぽちゃん!と音を立てて着水しました。
今は括りつけたドングリに似た木の実、グリンドの浮きがプカプカ浮いて居ます。
「 …で?」
「 後は待つだけです!」
「 待つだけ?」
「 えぇ、あのグリンドの実が沈んだらお魚が掛かった証拠です。」
「 …オサカナ?」
ゼノ君が頭に???と言った様子で私を見ます。
そういえば、釣りが知られていないこの街では、お魚が食卓に上ることはありません。
知らないのも無理はないでしょう。
「 水の中を自在に泳ぎ回る生き物で、とっても美味しいのですよ?」
「 へー…水の中…」
ゼノ君が、沼を一生懸命に覗き込みますが…水際は泥で深い所も緑色なので見えないでしょう。
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