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平積みの台のふきんには、スーツ姿の中年男性と、大学生風のこれも男性なので、関係ない。ハードカバーの棚から文庫本の棚をゆっくりと歩いた。文芸書のコーナーを抜けるまでに出会ったのは、髪を短く刈り上げた穴だらけのジーンズの女の子と白髪の老人と他数名の男性。その先の実用書や専門書のコーナーものぞいてみたが、棚の本にまったく興味がないせいか、どうにも居心地が悪く、ざっと見るだけにした。資格試験の書棚の前にしゃがみこむ若い女性が目にとまったものの、髪は確かに長いが、ほとんど金髪に近い色だし、お尻が見えそうなデニムのショートパンツに素足といういでたちは、由香から聞いた「りんさん」のイメージにはほど遠い。
そもそも「りんさん」の容貌がはっきりしないので探しようもなく、現在この本屋さんにいるのかいないのかさえ不明。そう考えるといいかげん疲れてもきたので、あきらめて出口に向かいかけたところで、雑誌の棚で背をむけて立っている女性が目にとまる。白いブラウスに黒のロングスカート。背中に垂れた長い髪。なんとなく「りんさん」と結びつくような気がする。さりげなく隣に立って、見もしないで手にとった雑誌を広げ、様子をうかがう。横顔を見る限り、とくに美人というわけでもなく、とくに醜いわけでもない。二十代の女性むきの情報誌を手にしているところから、おそらくそれくらいの年齢なのだろうが、よくわからない。見知らぬ人の年齢なんてわかるわけがないのだ。手元の雑誌に目を落とすふりをしながら、ときおり盗み見してみるが、「すごく変」どころか人目をひくところなど何もない平凡な女の人としか思えない。
閉じた雑誌を棚に戻そうとしたとき、女の人と視線がぶつかった。その瞳が非難めいた色をおびていたので、あわてて目を伏せて、足早に雑誌コーナーを離れる。レジの前まで来てから、雑誌を手にしたままであることに気づいて戻しに行こうとするが、女の人がまだあたしを見ていたので、しかたなしにそのままレジに並ぶ。店員が袋に入れる段になってはじめてティーンズ向けのファッション誌であることに気づいた。七百円もした。
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