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由香と一緒に帰るようになったのはいつからだろう。二年生になってクラスが替わって、もともと友達が少ないあたしはずっと登下校は一人だった。ある日、ホームで、由香の方から声をかけてきた。それ以来、なんとなく一緒に帰るようになった。別に示し合わせているわけではないが、たいてい、ホームか車両内で由香があたしをみつけて近寄ってくる。光峰駅で、それぞれ別の電車を待っている間も、由香と一緒だ。しゃべるのはもっぱら由香で、あたしは聞き役に徹している。由香の話は、ファッション、男の子、校内や私生活でのゴシップ的なことが大半で、はっきり言ってつまらない。好きな小説や映画の話題をふってみたこともあるけれど、まったく興味がないらしく、そういうのが好きな人ってなんかやばい、と気持ち悪そうに言われて以来、黙って話を聞くだけにしている。そのくせ、自分が口にしたファッションや芸能人のことをあたしが知らないと、ここぞとばかりにつっこんでくる。そもそも、茶髪で華やかな雰囲気の由香と、地味目のあたしは、外見からして全然タイプが違うので、話があうはずもない。由香が好きなファッションのことなんて、あたしにとっては別に知らなくても困らないことばかりなのだが、バカにされるとあまりいい気はしない。由香がいっしょに帰りたがるのは、はじめのうち、仲のいい子がみんな逆方向だからと思っていたが、実はストレス発散のためじゃないかと思うことがある。だったら、一緒に帰るのをやめればよさそうなものだが、いまさらあからさまに乗る車両を変えたり、時間をずらしたりする勇気もなかった。
その日の由香の話題は、バイト先のコンビニのおかしな客のことだった。聞くふりだけしてアニメ映画のタイトルについて思いをめぐらす。どうしても思い出せない。ネットで調べればすむ話だが、あたしは妙なことに意固地になるところがあって、自分で思い出さないと気がすまないのだ。光峰駅が近づいて、電車が速度をゆるめ始めた。ネタがつきたのか、しばらくおしゃべりを停止してスマホをいじくっていた由香が思い出したように口を開く。
「そうだ、こないだ、りんさん見た。光峰のショッピングモールで」
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