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だが、話の続きはあたしの予想に逆らって大きく湾曲していった。一見どこにでもいるごく普通の女性に見える「りんさん」だが、実はそうではないことに誰もがすぐに気づく。ぜんぜん普通ではなく、それどころか「すごく変」なのだそうだ。何が変なのかは、うまく説明できないけれど、とにかく変なのだ。たいていの人は、思わず二度見してしまうほどだ。本屋でも、カフェでも、りんさんの周囲だけ、まるで透明の壁で覆われているみたいに人がいない。無意識に距離を置いてしまうのだ。そのくせ、誰もが見ないふりをしてりんさんをちらちら見ているのだ。みんな、「りんさん」のことを「すごく変」だと思っているのだが、何が変なのかわからないので不思議でしかたがないのだ。
わかったようなわからない話だった。由香は、鞄を開けてスマホを取り出した。どうやら、「りんさん」についての解説は、これで終わりのようだ。話の内容があまりに漠然としすぎていて、反応しようもない。由香はスマホに夢中で、宙に放り出されたあたしの意識は、由香のスカートの裾が白く汚れていることをとらえた。昼休みにアイスを食べていたのを見た気がする。電車がホームに入ってきた。由香が乗る電車なのに、立ち上がろうとしないで、スマホをいじり続けている。
「乗らないの?」
そう聞くと、由香はうなずいて、スマホに目を落としたまま「たっくんと待ち合わせ」と言った。少し、かちんときた。自分から「りんさん」の話をふっておいて、あたしの中で「りんさん」がまだ不完全燃焼のままくすぶっているというのに、由香の中では「りんさん」はもう終わっていて、これから会う予定の、たっくんとかいう別の高校の彼氏のことしか頭にない。由香はいつもこうだ。さんざんあたしの心をふりまわして、自分はそんなことをさっさと忘れて帰ってしまう。まるで、由香のうっぷんを、全部押しつけられてかわりに処理させられているみたいだ。
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