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「彼の名前は?」
「そんなものはありませんよ、番号ならありますが。お教えしましょうか?」
「いや結構。それよりチップの移植が上手くいかなかった場合、彼はどうなるのですか?」
答えのおおよその予測は付いているが聞かずにはいられない。
「破棄しますよ、もちろん。チップは取り出してね」
「そうですか」
やはり……。人の命よりもチップの方が大切か。
トーヤは青年から目を離さず静かに考える。
彼の命はトーヤにかかっている。なんとしても移植を成功させなければ。
失敗すれば彼は破棄。そしておそらくはトーヤにもなんらかの処分が下るのだろう。
自分はいい。この世に生まれることが出来なかった兄弟たちの下に行くだけだ。
だが彼は……。
「チップと脳細胞との融合は完璧なのですがね」
ムナカヌが言う。
ということはもう取り出すことも出来ない。取り出せば彼は命を落とす。
外部操作のみで脳細胞を損傷せずに回路を作動させなければいけないということだ。
「わかりました。やってみましょう」
言うなりトーヤはデスクに腰掛けた。
一緒に付いてきた管理官がなにかを言いかけたが、聞く耳は持たない風を装った。
言われることはわかっている。
失敗は許されないぞ。
いつも同じ。なにをする時もどんな時も。
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