epi.3

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「ミスってのは、仕事をしてるからこそ起きるもんじゃん。愛実がサボってなんにもしない奴だったら、そもそも何も起こらないだろ? 失敗は今日の仕事の内。それを克服するのも仕事だし、全部すんだら、あー今日も頑張った、で終わらせていいんだよ」 「タッちゃん・・」 タイチさん・・と、思わず愛実さんと心の声が重なった。 なんて素晴らしい名言だろう。 人の編集ミスを鼻で笑ったうえグループLINEでばらまいた元同僚に聞かせてやりたい。 そういう脚本と言えど、男前なセリフと持ち前のイケメンさが際立ち、タイチさんが神々しく見える。 哀れな子羊に手を差し伸べる慈悲深い表情で、タイチさんが愛実さんの額に唇を当てた。 ぎゅっとつぶった目から涙が切れる様が美しい。 なんだよ、ただの天使と神の絵画じゃん・・。 愛は溢れども、下品なエロさなんて微塵も感じないと首を振ったその時、事態は急転した。 お互いに至近距離で見つめ合い、やがて口づける。写メに撮りたいくらい素敵な1シーンである。 タイチさんが少しずつ唇を振れ合す角度を変え、愛実さんも時々口をあけだす。 う、うん、まだ大丈夫。 夜10時ならこれくらいのキスシーン、ちょいちょい流れてる。 いったん目を開けた愛実さんが、掠れた声でタイチさんの名を呼んだ。 答える代りに微笑んで彼女の髪を撫で、ぺろっと唇を舐める。 それが合図のように、愛実さんもおずおずと舌を出した。はっきりと見える位置で舌を絡めあう2人。 離れてるのに、マイクはしっかりとその音までも拾ってくれた。 明らかに深夜帯向けのスイッチが入り、何故か私も動揺して椅子から立ちそうになる。 し、舌ってこんな丹念に舐めあうもの?愛実さん、もう口の端濡れてるじゃん。 イヤラシイといえばそれまでだけど、不思議と嫌悪感はない。 なんだろう、2人があまりに美しいから? それとも、タイチさんの表情があまりに優しくて、慰めの延長みたいだから?
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