430人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
てんこ盛りの生姜焼きがみるみるうちに減って行く。
熱い湯気も気にせず頬張っているのは、育ち盛りの学生でも体力をつけたいサラリーマンでもなく、真っ赤なルージュの篠崎さん。
勢いが良すぎてメガネが曇っている。
「やっぱここの定食が一番!小見さんもガンガン食べてよ。あ、コロッケも頼もっかな~」
ここまで食べっぷりが良いと見ていて気持ちが良いものだ。
店員さんも嬉しそうに注文を取りに来て「いつもありがと」と笑っている。
口にしたお肉は確かに美味しくて、つい感嘆の声が漏れた。
「おいしー・・」
「でしょ?奢るからなんでも食べてね。真野まーたレモン避けてる!絞った方が美味しいにきまってんじゃん」
「好みなんだから良いじゃないすか・・」
「・・お2人って、前からのお知り合いなんですか?」
今の言い方だと、何度もここに食べに来てるとも取れる。
寡黙な真野さんと姉御肌な篠崎さんの共通点が気になり、問いかけると2人が顔を見合わせた。
「ホントに何にも?」
「言ってないって。説明は篠さんの方が得意でしょ」
お、踏み込んだ呼び方。
掛け合いも良いし、思ったより深い仲なのかと勘ぐった時、篠崎さんが箸をおいて私を見つめた。
「真野はねえ、私の部下だったの。アンハト創刊まで、この子はずっとうちにいたんだ」
「・・え!?」
予想もしなかった言葉に、今度は私も持っていたお茶碗を置いて、2人を見比べる。
あっけらかんと笑っている篠崎さんと、淡々とお味噌汁を吸う真野さん。
冗談ではなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!