茨の首輪

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この世には四つの世界がある。 人間が暮らす『現世』 妖や精霊など人ならざる者達が棲む『サカシマ』 死んだ者の魂の行く先である『黄泉』 そして、人や人ならざる者の強い思念が作り出す怪物『モノ』を封印するために設けられた『奈落』。 これらの世界同士を隔てる境界線の強さは日々変わり、弱い時には妖や精霊が現世に潜り込んだり、逆に人間がサカシマや黄泉に迷い込むことがある。更に何者かによって作り出された『モノ』が暴走をすることも稀ではない。 そういった普通の人間が対応しきれない事態に対処する為にこの国、ジパングは妖や精霊と近しい人間を集めた特殊部隊をつくった。 それが『陰の戦闘員』だった。 戦闘員は現在六人。 隊長であり、自身も政府の人間である源蔵。幼い頃、生贄として別の国のサカシマと同じ世界に送られ、育ったが、育ての親が死んだことでジパングで暮らすようになった悠仁と彩華。 人間の親から妖が赤子を盗み、育てた双子の櫂と椎。 そして経緯は不明だが源蔵が連れてきた翔陽。 彼らのうち、源蔵、悠仁、彩華、翔陽の四人は使い魔と契りを交わしており、彼らと協力して任務を遂行する。 彩華が本部に到着した時に、商家特有の元は商いを行う空間には源蔵と悠仁がいた。そして彼らの使い魔である江利耶と風月もそれぞれのんびりとしていた。 大きな鷺に似た姿をした風月は悠仁の近くで寝そべり、その大きな羽を休めていた。 江利耶はというと、何か書類を書いている源蔵にまとわり付いていた。上半身は優美な女体だが、腹部から下が大蛇の姿をしている江利耶が文字通り巻きついているのを見た彩華はため息混じりの声で話しかけた。 「江利耶、あんた飽きないねぇ。そんなおっさんのどこがいいのか」 「あら、彩華はまだまだお子様だから分からないのよ。老けている方が噛み堪えあるってもんよ。特に彼みたいな特に彼みたいなくたびれたのはね」 「……お前ら、本人を挟んで堂々と失礼なことを言ってんじゃねぇよ。それに俺はまだ老けてもないし、くたびれてもねぇよ」 彩華と江利耶の会話に割って入った源蔵の頬に江利耶が唇を押し当て、それを見た彩華が顔を顰めたことで話は終わり、彩華は一部始終を聞いて肩を震わせていた悠仁の側に腰を下ろした。 風月の身体に顔を埋め、空木や椿の少しちくちくと刺さるような毛並みとは違う滑らかな感触を楽しみながら彩華は他の隊員が来るのを待った。 それから翔陽と使い魔の寒暁、櫂と椎が来て全員が集まった。部屋の中央に円を作るように座り、源蔵が話し始める。 「事件の内容はもう出回っている通りだし、政府から入ったものよりここの噂の方が詳しいので省くが、今回の指令は原因となっているものを突き止め、排除することだ。 いつもならこっちに戻してくればそれでいいんだが、今回の相手は恐らく他所者だ。サカシマに来ることを拒否する可能性もある。その時は……」 殺せ、という言葉を源蔵が濁すのは、他の五人の年齢があってか、それとも彼らの生い立ちからか。いずれにせよ理解した五人の顔に陰りが入った。 人間の中には妖や精霊のことを死のない存在だと考える者もいるが、彼らにも寿命があり、死がある。 しかし、サカシマは時の流れが非常に遅い。それはそこに暮らす者達にも作用し、人間から見ればサカシマに住む者は果てしなく長寿に見えてしまうのだ。 妖や精霊にも死があるなら、勿論殺すこともできる。そして今回の指令が最悪の結果になった場合、原因である者を殺さねばならない。 それはサカシマに思い入れのある六人には重くのしかかったようだった。
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