茨の首輪

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深夜、戦闘員の制服である黒い外套に身を包んだ六人が植物園の前に立っていた。 極秘ではあるが、政府関係者である彼らは職員から預かった鍵を使って閉園後の施設を調べ始めた。 しかし、調べるといっても櫂が式神の力を使い、事件の原因が潜む場所を探し当てるというものだった。 小さな声で何かを呟いた櫂の周りに淡い桃色と緑色の煙のようなものが現れ、すぐに小さな人型を成した。 「居場所を、教えて」 そう言うと桃色と緑色の人型はくるりと向きを変え、トコトコと歩き出した。 その歩幅は小さく、彼らに案内されている櫂達も自然と遅くなるが人ならざる者の性格を熟知しているので誰も文句を言うことはない。 目的の温室の前に着く頃には半刻近く過ぎていた。人型は元の煙のような姿に戻り、櫂の頬を撫でた。 少しくすぐったそうに笑った彼が感謝の言葉を口にすると、二つの気配が遠のいていった。 六人が温室を見上げ、次に入り口の側にある案内板を見た。そこには『イデア帝国 寄贈』と書いてあり、源蔵が眉を寄せた。 ∴∴ イデア帝国はここ、ジパングの海を隔てた先にある大陸の大部分を統治している大国であり、ジパングとも交戦した過去があった。 しかし、圧倒的戦力差であったにも関わらず、ジパングの兵達の防御網を突破できず、根負けした帝国が和解を持ち出したことで戦は幕を下ろした。 それからイデアの女帝とジパングを実質統治している姫巫女は友好な関係を築き、このように友好の証として寄贈し合っていた。 「源蔵、どうかした?」 「いや、なんでもない」 江利耶が源蔵の変化に気づき、声をかけるがはぐらかすと源蔵は入り口の扉を開け、中に入った。やりとりを見ていた隊員達も何も言わず後に続いた。 源蔵が隊員に頷くと使い魔達はそれぞれ姿を変えた。 空木と椿は一対の双剣に 風月は弓矢に 寒暁は槍に そして江利耶は斧に変わり、それぞれの主人が手にする。 櫂と椎は古代から伝わる式神を使役する術を身に付けている為、使い魔を持っていない。その場にいる妖や精霊達の力を借りることが出来るからだった。 椎が式神を集め、温室の周りを取り囲むように結界を張った。 戦闘になった場合、騒音を外に漏らさない為や対処が外に逃げない為などの役目を担っている。 温室には色とりどりの花が咲き乱れていた。 その中でも一際目を引くバラの木が、奥の方に植えられていた。全ての花が真っ白なバラの木は婚礼の儀で女性が着る白無垢を連想させた。 その側に女が立っているのに気付いたと同時に全員が戦闘態勢に入った。 「……誰かしら、私の眠りを妨げるのは」 女は隊員達に目を向けても何も気にしない様子で近づいた。 「俺達は近頃起こっている事件を解決する為に来た。この植物園を訪れた男性客が声を失うというものだが、貴女の仕業か」 「そのことね。ええ、全て私が行ったことよ」 笑みを浮かべたまま、源蔵の問いに女はあっけらかんと答えた。
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