茨の首輪

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ふわりとしたパニエ付きのドレスを着ている女はとても優美で、一見すると大陸の貴族の令嬢のようだが、ドレスは汚れ、大きな目なのに白目が全く見えない。 そして何より女の細く白い首のちょうど真ん中辺りに赤い線があり、所々で伝う血が棘のように見えた。 「何故危害を加えるんだ」 「彼らに愛する相手がいたからよ」 源蔵が更に追求するより先に彩華が後ろに飛び退いた。 ビシッという鋭い音。 先程まで彩華がいた場所の地面には鞭が強く打ち付けられたような跡が残っていた。 「あら残念。けれど、次は外さないわよ」 言葉と同時に四方八方から枝や蔓が飛んできた。 それらを彩華と翔陽が払い、できた空間をめがけ悠仁が矢を放つ。 女の目の前まで迫った矢は間に入ってきた枝に刺さった。 間髪入れず女の背後まで回っていた彩華が双刀を下から振り上げる。 前方からは翔陽が槍で突き、源蔵が斧を振り下ろした。 それらも阻まれ、反撃と言わんばかりに彩華、翔陽、源蔵の体に白いバラの木から伸びた枝が巻きついた。鋭い棘が肉に食い込み、彼らの足元に血が滴り落ちた。 「貴方達も可哀想に。人間なんかの味方をして、傷付かなきゃいけないなんて。 そして誰も貴方達のことを知らない。それなのに貴方達が闘う意味なんてあるのかしら」 女は翔陽の頬を撫でながら言った。怒りを露わにした翔陽が枝を引き千切ろうと体を動かしたが、枝は千切れるどころか力を強め、翔陽の顔を歪ませた。 「同情するくらいならこの拘束を解いてほしいんだがな」 「それは出来ないわ。もし私が今拘束を解いたら、また襲おうとするでしょう?」 「人に危害を加える動機を教えてくれれば、貴女の為に俺達が出来る限りのことを尽そう。 勿論その場合は貴女を襲うこともない」 源蔵が女に話しかけながら目で合図を送った。 悠仁が弓を置き、風月が本来の鳥の姿に戻った。それを筆頭に使い魔達が次々と元の姿に戻り、様子を伺う。 女はしばらく見回したあと、三人の拘束は解かないまま話し始めた。 「男が放つ愛の言葉なんて、何の意味も持たない。だからいっそ、失くしてしまえばいいと思ったのよ」 「何故そう思うようになったんだ」 そう問いかけた瞬間、温室の景色が一気に変わった。 規則正しく並んでいた植物は消え、朗らかな日が差す美しい庭園がそこにあった。 かなり広い庭園のようで、遠くには噴水や温室も見える。 女は驚き、殺気立った目を戦闘員に向けたが、すぐに映る光景に意識を奪われた。
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