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「名前を聞いても?」
「モーリス」
「モーリス。貴女がした事は確かに許されることではない。
ただ、さっきも言ったが俺達は貴女の為に尽力するよ」
見守っていた隊員達の間に安堵の空気が漂い、モーリスの顔には困惑した表情が浮かんでいた。
「だがやはり貴女にこれ以上ジパングにいてもらう事はできない。
そして故郷であろうイデア帝国に返還する事も難しいだろう。
そこで、ある場所に行ってもらおうと思う。きっと貴女も気に入るだろうさ」
そして被害に遭った男性達の声を元に戻させ、事態は終結した。
∴∵
「それで、結局その人はどうなったの?」
ハルが彩華の包帯を替えながら尋ねた。
モーリスに締め上げられた三人は骨にヒビが入り、棘による無数の刺し傷によって本部の広い空間で横になって休んでいた。
治療はハルと江利耶が行っており、他の隊員も近くで二人を手伝っていた。
「知り合いで花屋を営んでいる人の所に行ってもらった。ジパングより生活形態も似ている場所だから居やすかろうと思ってな」
江利耶が包帯をきつく締め上げたことに顔を顰めながらも源蔵が答えた。
「それにしても、家が窮地に陥ったからと言って一度は愛した人を殺すなんて。
酷い男もいたものよね」
「男の方も仕様が無い部分があったんだろう。
ジパングは今でこそ様々な国の人が暮らしているが、元はほとんど同じ人種しかいない国だった。
だから感覚が薄いかもしれんが、違う人種や考えを持つ国を無理やり一つに纏めているような帝国ではちょっとした事でも皆殺しが普通に行われる。
そうしなきゃ、自分がやられるからだ」
「……とにかく、今回は櫂と椎の手柄ね。二人が記憶を投影してくれなかったら任務は成功しなかった」
彩華が横になったまま枕元にいた椎の頭を撫でた。椎は照れた表情で彩華の手を受け入れる。
「白いバラの木が記憶をくれたんだ。
多分あの木にはモーリスの他に精霊が宿っていて、彼女が死んだ時もあの時も精霊が助けた。
彼女はとても愛されていたんだよ」
櫂が話すと少しの間沈黙が訪れた。そして、源蔵が笑みを浮かべながら言った。
「だったら、送った先は正解だったな」
∴∵
数ヶ月後、陰の戦闘員の本部に花束が届いた。
真っ白なバラのみで作られた花束だが、花の一つ一つが活き活きと咲き、凛としているそれはまるで広い庭園を歩き、そこに咲き乱れる花々を愛した女性のようだった。
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