掌に残るもの

8/33

1347人が本棚に入れています
本棚に追加
/345ページ
『…僕は見てるから。アンタが幸せにやってるかどうか、ちゃんと見張ってる。 消えないで、ココにいるから』 そう、コンコンとボクの胸をノックした。 うん、解ってる。ちゃんと、此処にいるって解ってる。 ボクたちは何も失ったりしない。 『だからさ、だから…』 「愛してるよ、泉」 『っ、バッカじゃないの?!はぁ?!』 「愛してる」 『----ぅぅぅ』 ちゅっ。 頬にキスをする。してみた。してやったり。 『…忘れないでよ』 「忘れない。絶対。死ぬまで絶対」 『…幸せになんないと許さない』 「解ってます。それも約束する、っていうか最大限努力します」 『…ヤツのコトも…た、頼んだ』 「うん、いつか密兄さまが幸せになれるように、出来る限りのことしてみる。解って貰えるまで何度でも説明する」 ここだけは疎かにしちゃいけない。 不実なことをしたのだから、誠実に贖罪をしなければいけない。一生をかけてでも。 密兄さまから泉を取り上げた罪は、消えないのだから。 『…なら、返してあげる。僕も、前よりは、アンタのこと ーーー嫌いじゃないよ』 そう云って、ちょっぴり笑いながら口唇に軽いキスをおとして、 瞬きしている間に、もうひとりのボクは この腕の中から 消えた。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1347人が本棚に入れています
本棚に追加