憂鬱な朝食

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まだ二十代半ばとは思えないほど落ち着いた物腰で、まるで学者のように物静かで聡明な雰囲気をまとっている。 漆黒の艶やかな髪は肩口で揃えられていて、細面は母様譲りだ。背は高い方だが、とても痩せているので、華奢に映る。たおやかで華やか、たとえるならカラーの花のような人だが、芯があって決して折れない。 さすが北白川の長兄である。雪の名を冠するに相応しい、美しさと厳しさを兼ね備えている。 私を見る、その美しい一重の目元は今、柔らかに細められている。銀縁の眼鏡をそっと指で押し上げる様すら、溜め息が出るほど美しい。 優しく麗しい、私の大好きな兄さま。 「雪兄さまも相変わらず素敵ですわ」 心からの微笑みを返せる、雪兄さまは私の心のオアシスだ。幼い頃からずっと。 「また雪を贔屓してるな!たまには俺の好みもきいてくれ!」 横やりを入れてくるのは、次兄の真春(まさはる)兄さま。 声の大きさに比例するように、身体も大きく、雪兄さまと同じ兄弟だとは思えないほど野性味に溢れているところは、完全に父様譲りだ。 意思の強そうな眉と、口ほどに物を言ってしまいそうな大きな眼。素直で無鉄砲、子供っぽい危うさが、長所であり短所でもある。 とにかく男らしさ一直線といった趣きだが、実は家庭的で家事全般お任せ、料理の腕はプロ並み、というギャップ萌えな人でもある。 少々、少女趣味的なところがあり、私にいつもゴテゴテと飾り立てたお姫様のような格好をさせたがるところが玉に瑕だ。 「春兄さまのくださるお洋服は、日常生活向きではありませんもの」 軽くあしらっておくのが丁度いい。 「じゃあ、次の夜会では俺の見立てたドレスにしてくれ!約束だぞ」 拗ねた声で強引に約束を取りつけるあたり、まだまだ雪兄さまに比べると子供だ。
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