憂鬱な朝食

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私はこの人がこわい。 恐ろしい。寒気がするほど。 逃げ出したい。吐き気がするほど。 でも全て飲み込んで腹に納めて、ことさら優雅に、誰がどこから見ても美しい角度で、完璧に微笑む。 まるで恋する乙女のように。 「今朝も麗しいですね、愛兄さま」 返事など期待してはいない。 愛兄さまが言葉を発するなど、余程のことがない限りあり得ないと皆が知っているので、回答が必要な問い掛けなどそもそも誰もしないのだ。 睫毛の一本も揺らすことなく、美しい人形のように、ただそこに在るだけの存在。人であることを放棄した無機質さを見せつけながら、確かに息づき、強烈な存在感を放つ。 こんな人間を私は他に知らない。 北白川真愛という人間は、 世界にただ一人しかいない。 誰にも似ていない。孤高の存在だ。 無二のくせに儚い。 私が世界で最も憎んでいる男。 そして、私が世界で最も愛している男。
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