掌に残るもの

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ボクたちは、何かを何処かで間違えてきたんだろう。 だけど、この掌に掴んだもモノをもう、手離してもいい、とは思えなくなっているボクは。 どんなに謗られようとも、どんなに踏み躙ろうとも、 大切なものが何か、もう知っているから。 幾らだって泥を被る覚悟は出来ている。 ボクの分身をボク自身が苛んでいようとも。 「ごめんね、泉。ボクは泉にこの身体を渡してあげてもいいかなって思ってた。何も手に入らないなら、蓮華でも、泉でも、必要とする人にあげちゃえばいいやって思ってた。人生なんか投げちゃえって、運命舐めてた」 でも、もう云えない。 もう、ボクが要らない人間だなんて云えない。 あの人から伸ばされた手を、もう、 一瞬でも離したくないから。 『…謝るなぁっ!謝るなよ、バカ…  …惨めになるだろ』 抱き締めた腕に更に力を籠める。ありったけの謝罪と感謝と労りと愛情と、それから、それから… 「ねえ、泉。君はどうしたい? ボクは、もう自分を殺したくないんだ。自分のこと偽るのも止める。それで北白川美澄がいなくなったとしても、もうそれはいいんだ。 ボクはボクとして生きたい。時任泉でも北白川美澄でもない。ボクはボクでありたい。ボクとして、あの人の傍にいたい。あの人を離したくない」 もう運命から逃げ出したりしない。 あの人に、愛される、求められる、ボクでいたいんだ。 「泉、君はどうしたい?」
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