掌に残るもの

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「…密兄さまのこと、本当は好きだったんじゃない?」 そっと囁けば、一瞬嗚咽が止まった。 どうやら図星らしい。 「密兄さまのこと、どうしたい? ボクは密兄さまのこと好きだけど、寝たいとは思えない。 ーーーもう、迷わない。 だから、ごめん。 泉にこの身体を返してあげられない。 ごめんね、泉。ごめん」 ひとつの身体にふたつの魂で、ふたりの人間を同時に愛することは出来ない。 それなら、たったひとつの身体の、所有権を争うしかない。 『…ふん。最初から勝負になんか、なりっこないじゃんよ。 僕のことなんて誰も必要じゃないことなんて、最初っから分かり切ってたことじゃん。 ずうっとアンタの中で眠ってて、誰にも見つけてもらえなかった僕のことなんて、誰も知らないんだからさ。僕のことなんて、誰も見ない誰も愛さない誰か気付いて欲しかった!僕のこと見つけて、愛してるよって、必要だよって、大事だって、言って欲しかっただけなんだよ…』 あんなに無茶苦茶に見えた泉の奥底には、 震えながら泣きじゃくる小さな子供がいた。 ボクも一緒だったよ。 本当のボクを見つけて、美澄じゃないボクを誰か救い出して、って そう、思っていたよ。 ねえ、泉。ボクたちはやっぱり、ふたりでひとつだ。 同じ魂になれるんじゃないかな。 ふたりでひとつ、時任泉でも北白川美澄でもない、 新しいボクたちになれるんじゃないかな。 ねえ、泉。 抱き締めた腕の中で、ほんのちょっとだけ、微かに泉が頷いたのが見えた。
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