掌に残るもの

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『随分と呆気ない幕切れじゃの』 背後から突然、ぽん、と投げ掛けられた呟きは。 「…蓮華」 振り返って驚いた。 全くの別人かと思う程、憑き物が落ちた顔をしていた。 何もかも削ぎ落として、微かに微笑んでいる姿は、 涅槃の池に浮かぶ世にも美しい薄紅の花の如く清らかで、 ほんのりと輝いているようにすら見えた。 「随分、様変わりしたね。なんて云うか…おめでとう」 善かったね、と祝福すれば、面映いのか決まりが悪いのか、何とも云い難い気持ちを飲み込んだ顔でそっぽを向いた。照れているのだろう。 あんなに憎いと、殺してやりたいと、恨んでいた相手を前にして、掌を返してしまった己を恥じているのか。もう気にしなくてもいいのに。誰もその当時の二人を知っている人間などいないのだから、自分の気持ちに素直になってしまえばいいのに。 生温かい気持ち入りの視線が伝わったのだろう、冷たい目で睨み返してきた。 …虚勢が可愛いって、泉も蓮華も、どんだけ可愛いツンデレキャラだ。 『まあ、汝には迷惑を掛けた、な』 …謝る、とは。意外過ぎて一瞬言葉を失った。 『廉頗負荊(れんぱふけい)、己が妄執を後世に残すものではない、と叱られた故な』 言い訳がましく所在無さそうにしている姿に、胸がきゅんっとした。 「もういいよ。何にしろ、想いが通じ合ったようで善かったよ」 ふふふ、と自然と微笑んでしまった顔を、不機嫌そうに睨め付ける様すら可愛らしい。
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