掌に残るもの

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そんな僕の小さな不安をかき消すように、あなたはそっと僕を抱き締めて、キスしてくれる。とても自然で、とても優しいキスに、ここにいていいんだと許されている気持ちになれる。 開け放していた窓から、さあっと吹き込んでくる涼しい風が、はたはたとTシャツを揺らす。あなたの髪も揺れる。 「…随分伸びたよね」 柔らかな黒髪を指で梳かす。低い位置で雑にひとつにまとめただけの髪は、今や肩よりも長く伸びて、解いてしまえばその美しい顔も完全に隠してしまう程だ。 「お前が嫌なら切る」 「嫌じゃないってば!ただの感想!」 何事にも執着のなかったあなたの視線が、僕ひとりに向けられた途端、こんなにも一筋に強く甘くなるだなんてこと、想像すらしなかった。今やあなたの世界はあなただけのものじゃない。そこには必ず僕が含まれている。たぶん、きっと、中心に。 どんなに距離が離れても、必ず心の中には僕がいる。 だった僕たちは、魂を分け合っているんだから。 「好きにすればいい。俺はお前がいればいい」 王子様みたいに綺麗な顔で、なのに全く感情の読めない仏頂面で、そんな愛の告白をされて、一体僕はどう返せば正解なんだろう? いつも悩む。この人に僕は与えられるものはなんだろう。 この人から何もかもを奪ってしまった僕に出来ることは。 ただ生涯をかけて、全力で愛し抜くこと、だけだよね。 「僕もあなたがいれば何もいらない。あなたはいつだって僕の王子様なんだから」 そうでしょ?兄さま。
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