戦闘服とローヒール

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ーーーコンコン。 控えめだが、無視を許さない強さで、ノックの音が鳴る。 "さあ、本日もやってまいりました! 皆様お待ちかね、ショーのお時間です" ここを出れば、 時任泉(ときとういずみ)は消えてなくなり 北白川美澄(きたしらかわみすみ)が動き出す。 『私』は、美澄。 完全にして優美、誰もが憧れる北白川財閥の御令嬢にして 現当主の秘蔵っ子。 北白川 美澄だ。 『どうぞ』 声帯を長年駆使した結果得られたのは、自分の声とは思えないほど可愛らしい、可憐な少女の声。 きっかり3秒数えてから音もなく開いた扉の向こうには、執事の門倉が微笑んでいた。 「おはようございます、美澄さま」 物心ついた時からこの形態を貫き通している、理想の執事。代々北白川の本宅に仕える執事の家柄である門倉は、きっと生まれてから死ぬまで、執事であり続けるのだろう。崩れた姿など想像も出来ない、一分の隙もない男。幼い頃から、その印象は変わらない。 『おはよう、爺や』 ふわりと踊るように軽やかに、しかし決して急がず、音もたてずに歩き出す私の後ろを、ひっそりとついてくる。 毎朝律儀に迎えに来ずとも、子供じゃないのだから、朝食をとるホールまではひとりで行ける。 と、何度主張しても聞き入れてくれることはない。にっこりと笑顔で黙殺されるだけだ。 どうせいつだって朝食をとるのは私ひとりだ。 自室でとっても構わないはずだが、わざわざ運ばせるのも気が引けるし、どうせ黙殺されるだろうから言わないけれど。 しかし、今朝は「いつも」とは違っていた。 「御朝食には、お兄様方もご出席なさいます」 兄様たちが? ということは、何か重要な出来事があったということか。誰が来ているのだろう。 「宜しければ、おぐしを整えましょう」 訊ねるようでいて否を許さない物言い、この問いかけに逆らうのは労力の無駄というものだ。 「では、お願いするわね」 にこりと微笑んで振り返ると、差し出された手を取って、ホール手前の部屋に案内された。
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