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「お嬢様!ご無事ですか!」
いつになく大きな足音をたてて、慌てて駆け込んできた門倉の焦り顔が、室内を見渡して緩む。
執事にあるまじき無作法、お許し下さいませ。そう一礼して、改めて近づいてくると、ソファで横たわる私の傍らに跪いた。
「お嬢様、お加減は如何ですか。お辛いところはございませんか」
恭しく手首をとって脈を図るその指の冷たさに、意識が引き摺られて覚醒していく。
「突然使用人たちがばたばたと倒れまして、中には意識を失う者まで出て参りました。誰も彼も熱に浮かされたようにふらふらとしながらも、西棟を目指して行くのが見えまして、よもやお嬢様に何かあったのではあるまいかと」
「愛が抑制剤を飲ませたようだよ」
先程までの呆然自失の体とは打って変わって、平常運転になったらしい雪兄さまが立ち上がる。ゆっくりとした足取りで向かってきて、門倉の隣に跪いた。
「美澄、済まなかったね…
僕たちがこの状況を引き起こしたのだとしたら…
君には随分辛い仕打ちをしてしまったことになる。悪かった」
「…いいえ、雪兄さま。何程のこともありませんわ」
無理矢理微笑んで見せると、少し顔を歪ませながらも笑い返してくれた。
兄さまたちが悪い訳ではない。
悪いのは、
αもβも
自分自身さえも狂わせる
ーーー私のΩだ。
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