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物心というものが、何時つくものなのか。一般的には幼稚園の前後だと思われるのだが、彼の場合は1歳頃だったという。
漸く歩き始めて、言葉を発し始めるその頃に、彼は平仮名と片仮名をマスターしていたらしい。歩くより早く、絵本を読み始める姿に、驚きや喜びよりも恐怖が勝った、と後に兄たちは語る。
恐怖とは違うかもしれない、それは得体の知れない存在に対する畏怖ではなかったか。
荒れ狂う嵐や、荘厳な夕焼けや、そういう己の力では制御も理解も出来ない、大いなる存在に対する畏怖。
それを、血を分けた幼い弟に確かに感じたのだ、と兄たちは言った。
天才や神童という生易しい概念ではない、人種の違いでもない。もはや、存在として別種だと無意識のうちに悟ったのだという。
野に咲く花や、涼やかに流れる川や、夜空に燦然と輝く月。そういう美しい存在は、同じ世界に住むものとして、種類は違えど好ましく、其処にあるだけで愛おしい。たとえ理解できなくても、解り合えなくても、ただ在るだけで心を震わす。
それが、
北白川 真愛
という人間だった。
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