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幼いながらも聡い兄たちは、末弟の異質さを排除するのではなく、受け入れ、育み、慈しむことを選んだ。そう選択出来るほどに兄たちを育てた義両親たちには尊敬しかない。素晴らしき哉、北白川の血。
生まれ落ちた時点で兄たちよりも抜きん出てしまったこの末弟は、幼児期のほんの数年間で、『子供であること』を自ら諦めたようだった。
頭脳明晰、容姿端麗という美辞麗句では飾れない、異次元の異質さを、他人はどう捉えるのか。
己が周囲からどう見られているか、だけではない。
何を求められているか、
ーーー何を求められていないのか。
何もかもが瞬時に明白になってしまう世界とは、一体どんなものなのだろうか。
彼を見ていると、そう思わずにはいられない。
誰のどんな思惑でも、瞬時に見抜いてしまう。表情の裏に隠されているはずの心情が、手に取るように判ってしまう。どんな作為も演技も通用しない。
彼にとっては、他人などまさに『とるに足らない』存在なのだ。
どうだ、凄いだろう、と上手く相手を騙した気になっているマジシャンのように、酷く馬鹿馬鹿しく滑稽に映っているに違いない。
ーーー無駄だ。彼は全てのネタを知っている。
あるいは、何でも知ってる、何でも出来ると主張して、背伸びしようと虚勢を張っている幼な子か。
ーーーにこやかに頷いて認めてあげる以外、何が出来るだろう。張り合うことも、否定することも、徒労にしかならない。
彼にとって我々は路傍の石であり、世界は退屈に満ち満ちていたのだ。
そう、彼女に出逢うまでは。
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