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室内には既にメイドが待機していて、髪を飾る用意が整えられていた。無駄のない周到さ。こうでなければ、北白川の執事など務まるはずがない。
白い猫足の丸テーブルには、色鮮やかなリボンやらカチューシャやらが置かれている。そのどれもが蝶のモチーフだ。
一瞬にして、心が浮き上がる。
表情筋をあえて意識しなければならないほど、頬がゆるんでいるのが分かる。
雪兄さまがいらしてるなんて珍しい!
今日は朝から、なんて日だ!
私のウキウキが伝わったのか、くすりとメイドの佐藤が笑った。気心の知れた馴染みの使用人は、この屋敷では貴重な存在だ。母親代わりに見守ってきたくれた彼女相手に、隠し事は難しい。
「美澄お嬢さま。今朝はお兄さま方が勢揃いしてらっしゃいますよ。お久し振りでしょうから嬉しゅうございましょう」
朗らかな佐藤の声は、
私の心を一気に、
叩き潰した。
…勢揃い、ということは。
あの人もいる、ということ。
さっきまで明るい光が差し込んでいた、喜びに浮き立つ心は一瞬で闇に閉ざされ。
地の底を這い回る、どろどろとした澱と残り火に、腹の奥が焼かれ始める。淀んだ醜い化け物が、腹の奥底で暴れ始める。
ーーー何もかも壊してしまいたくなる。
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