憂鬱な朝食

2/16
前へ
/345ページ
次へ
室内には既にメイドが待機していて、髪を飾る用意が整えられていた。無駄のない周到さ。こうでなければ、北白川の執事など務まるはずがない。 白い猫足の丸テーブルには、色鮮やかなリボンやらカチューシャやらが置かれている。そのどれもが蝶のモチーフだ。 一瞬にして、心が浮き上がる。 表情筋をあえて意識しなければならないほど、頬がゆるんでいるのが分かる。 雪兄さまがいらしてるなんて珍しい! 今日は朝から、なんて日だ! 私のウキウキが伝わったのか、くすりとメイドの佐藤が笑った。気心の知れた馴染みの使用人は、この屋敷では貴重な存在だ。母親代わりに見守ってきたくれた彼女相手に、隠し事は難しい。 「美澄お嬢さま。今朝はお兄さま方が勢揃いしてらっしゃいますよ。お久し振りでしょうから嬉しゅうございましょう」 朗らかな佐藤の声は、 私の心を一気に、 叩き潰した。 …勢揃い、ということは。 あの人もいる、ということ。 さっきまで明るい光が差し込んでいた、喜びに浮き立つ心は一瞬で闇に閉ざされ。 地の底を這い回る、どろどろとした澱と残り火に、腹の奥が焼かれ始める。淀んだ醜い化け物が、腹の奥底で暴れ始める。 ーーー何もかも壊してしまいたくなる。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1351人が本棚に入れています
本棚に追加