憂鬱な朝食

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私は今、上手く笑えているだろうか。 上手く、演じられているだろうか。 「あら、兄さまたちが揃うなんて、兄さまの入学式以来じゃなくて?うふふ、楽しみだわ」 にっこりと微笑む私に、佐藤も微笑み返した。 「もう梅雨になろうかという頃合ですからね。皆様お忙しい方がたですから、仕方ありませんね」 そこには兄たちを気遣う優しさが溢れていて、束の間、心が和む。 だが、すぐにそれも暗い炎にかき消されていく。 とにかく笑顔で乗りきるしかない。ここは腕の見せ所だ。完璧に演じきってやる。 「真雪様のお好きな蝶尽くしでございますね。どれになさいますか」 余裕の笑顔で、複雑な編み込みを絡ませ合いながらアップに仕上げていく佐藤の見事な手元をちらと見上げて、小首を傾げてみせる。 「今日のお洋服にはどれが似合うと思います?」 「お召し物が爽やかですから、こちらは如何でしょう?」 佐藤が手に取ったのは、幾筋も垂れ下がった細い銀鎖の先で、大小様々な寒色の蝶たちがはばたいている、銀のかんざしだった。トップに飾られた一際大きい蝶が尾を引いたように、同系色の薄いオーガンジーのリボンが数本重なりあって、初夏の風のように涼しげに揺れている。 私は黙って門倉の方を振り返った。 「ーーとてもよくお似合いです」 かすかに口角を上げて、ひとつ瞬きをした様子を確認して、佐藤に頷く。 「こちらでお願いするわ」 「かしこまりました」 佐藤はにこやかにそう返すと、かんざしを手に取り、そっと差し込んだ。 さて、戦闘体制は整った。 優雅に、しかし素早く席を立つと、そっと深呼吸をひとつ。 「皆様お待ちでございますよ」 扉を開けて促す門倉に頷いてから、そっと振り返る。 「いつも素敵にしてくださってありがとう」 「もったいないお言葉でございます。さあ、いってらっしゃいませ」 ーーー幕が上がる。
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