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「どうだった?」 母は僕が家に着くなりそう言った。 「完璧…」 その時、僕はそう言ったらしい。 高一の終わり、父の転勤で我が家は引越しすることになった。子供が高校生くらいだと、世間では父が単身赴任するケースが多いらしい。でも、我が家は家族揃って暮らすことを選んだ。 僕個人の都合を言うと、勉強は並で今の高校でなくてはという理由はない。クラブも入学して半年もたたずに止めてしまった。残念ながら恋人もいない。唯一後ろ髪を引かれたのは3人の友だちだが、やつらとは2年後、東京の大学で再会することを約束した。 母は引越先の高校の編入試験の手応えを尋ねたのだった。 事情がある転校の場合、正確には編入と言わず転学というらしい。事情があるから合格しやすいと僕は高を括っていたが、的を得ていたようで、試験に手応えはなかったがすんなり合格した。 母だけは完璧な息子を頼もしく思ったようだ。
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