〈#FF外から失礼します〉

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 さすがにムカついた。松尾は自転車のハンドルを握りしめ、唇を噛んだ。 (うるせーな正義厨が。俺は正しいことやってんだよ!)  苛立ちを込めてペダルを踏み、やにわにスピードを上げた――次の瞬間、  ドン!!  凄まじい衝撃が松尾を襲った。バランスを崩したが、足を踏ん張ってどうにか転倒は免れた。命ほどに大事なスマホはしっかり握ったままで。  何だと思う間に、耳をつんざく金切り声が響き渡った。 「きゃあああ! ケンちゃん!」  松尾が乗る自転車のタイヤの先に、幼い子どもが倒れていた。近所の幼稚園の園児だ。小さな頭から血を流し、黄色い帽子を赤く染めている。 「どうしたんだ!」 「うちの子がっ、あの中学生の自転車にぶつかって……っ!」  あっという間に松尾の周りに人だかりができる。  スマホに釘付けのままスピードを上げた時、道を歩いていた園児にぶつかったのだ。園児が撥ね飛ばされた先はゴミ捨て場で、運悪く割れたガラス板があった。  松尾の思考は完全に止まった。それでもなお、彼はスマホを離さなかった。  彼の手の中で、スマホがツイッターの通知音を伝えた。 『FF外から失礼します。  だから言ったのに』
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