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……ぱしゃんっ。
微かな水音が立った。水面も、風のせいでなく揺れている。
一瞬で不穏に染められた空気の中、……ぱしゃんっ。また、水音が。
湖の中央に目を転じると、丸いものが浮かんでいた。徐々にこちらに近づいてくる。まっすぐリオとナルミに向かってくる。
『それ』は人頭だった。暗いせいで顔の造形は分からないが、禿頭の……そして、陸に上がった人影はとんでもなく巨体の男だと分かった。
男の手には、何やら棒状のものに扇形の金属の板を付けたものがある。あれは……斧?
嘘でしょ――眼前の光景に信じられないでいると、耳にもっと信じられない音が届いた。
カシャカシャカシャカシャカシャ!!
ナルミが『それ』の写真を撮っているのだ。
「な、何やってんのよナルミ!」
だが、そのおかげでリオは正気を取り戻した。なおもカメラ画面をタップし続けるナルミの腕を引っ張り、車を停めた森の中までダッシュした。
息も絶え絶えで車に乗り込む。『あいつ』はまだ追ってこない。ひとまずは安心だ、早く逃げようと思った。
「リオ……ヤバイよ、これ」
ナルミが呼んだ。その声は震えていた。
「……一万イイネ、いっちゃった……」
随喜に、震えていた。
歪んだうすら笑いを浮かべたナルミは、車のドアを開け、元の場所――栗須湖の方へ疾走した。スマホを握りしめて。
リオの制止は届かなかった。
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