夕暮れと密室、或る逃避行

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彼女の想定外はきっと、わたし。こんなところを好む先客が堂々と真ん中で昼寝に興じていたこと。 「……どうして、なんて思わなかった。嗚呼、そうなったんだねって。物分かりのいい顔して瞼を閉じるわたしがいるの。ここに、わたしの中に。あいつの顔をした影が、嗤ってるのよ。嬉しそうにさ……結局、キレイゴトしか見てなかったんだよね、わたしは……」 当事者である二人の間に何があったのかなんて、わたしは知らない。知る由も無いし、これから先も知ることはないだろう。その無力の波に、舌に亀裂が走る。眉間に皺を寄せて語気を強める柳川さんの口元は、無理やりにでも笑いを貼り付けようと震えていた。それが、この象景のなかで何より気に入らなくて。ムカついて、悔しくて、でもどこかでホッとしていて。 「……見て」 「え……」 困惑を深める柳川さんに、わたしはそんな矛盾した感情を隠そうとはしなかった。ただ、そんな顔をしてほしくない。そう思ったから。 「見てよ、窓の外。わたしのオススメスポットだから、此処」
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