夕暮れと密室、或る逃避行

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窓の外に当惑した顔のまま向き直る柳川さんの横顔は、思っていたよりも綺麗で。長い睫毛が夜の始まりと交差して六等星みたいな錯覚じみた光を乱反射した。憑き物が落ちたような瞳に欠けた太陽は映らなかったけれど、遠い街に灯った光が涙のように薄暗い部屋に溶けていく。 「――It is a sad and beautiful world……」 昔見た映画の一節が唇から零れたのを知覚する。ガラでもないのに、不思議と気恥ずかしさは感じなかった。風に拐われる窓枠の塵が踊る。祭に心躍らせた同級生たちの声はもう聞こえない。緋色と紫の溶けた嵐の模様はビードロ。現在にも破れそうに透き通ってばかり。見上げた四分の一の空に酩酊するわたしたちは、肩をくっつけてどちらとも知れず笑い出す。 「……ふふ。なんだか、おかしい。ねえ、どうしてすぐに扉を閉めたのがわたしだって分かったの……」 笑い疲れたようにわたしの顔を覗き込む柳川さんの顔は、赤紫にとぐろを巻いた空に照らされていて、その頬に伝う軌跡を反射してなぞり上げられていた。目を逸らして輪郭を綻ばせるグラウンドを眺めながら、口を開く。 「ここのファンだからね、わたしは。古いドアがそうであるように、ここの扉も鍵をかけた状態で閉めれば施錠された状態にすることができることくらい、とっくに知ってたよ」 なによりさ、と言葉を続ける。 「クローズドサークルは、犯人もたいてい密室の中にいるものでしょう?」
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