夕暮れと密室、或る逃避行

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「柳川さん? どうして……」 「どうしてもなにも、閉じ込められたんだよ、わたしたち。密室だよ」 窓から差し込む欠けた太陽に照らされて、柳川さんが気怠そうな微笑みを湛えていた。肩にかかったセミロングの黒髪が呼吸に合わせて上下して、逃げ場なく絹のように零れ落ちていく。 鼓動がわたしの腕を掻き分けて、指先へ震えが走り抜けた。沈みいく光に照らされた彼女の顔は、まるで能面のように表情というものが深いところへ沈殿してしまったようで。ただ嗤いを糊付けされた瞳には本当にわたしの輪郭を映しているのか。 「み、密室? そもそもここって、音楽準備室のはずだよね?」 「そ。正解だよ、舟本さん」 音楽準備室。音楽室と同じ西棟三階の端っこ。音楽専門の準備室というわりには大して楽器が置かれているわけでもなく、近くにある進路相談用の資料室に収まりきらない荷物が我が物顔で部屋中に鎮座している。一つだけの窓からは校門と広場、そしてグラウンドまでが一望できるので、わたしの中で密かな人気スポットだった。もちろん、普段から入れるような場所ではないのだけど。 「基本的に教員しか立ち入られないよう、準備室は外から鍵がかかっているの、知ってるでしょう。飛雄祭の準備期間という限られた間だけ、わたしたち一年C組の面々だけが楽器の出し入れのために入室を許可されているんだもの」
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