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それももう、明日で最後だけどね。そう窓の外に広がる茜色の人工芝グラウンドを見つめながら、柳川さんは呟く。それから埃に咽せたのか、数回咳き込んだ。丸まった背中が引き攣るように上下するのを眺めながら、わたしはここへ来た経緯を思い出していた。
「わたし、締太鼓を戻しに来て、そのまま疲れて座って、眠くて……」
「まあ、お昼寝には絶好の隠れスポットだもんね」
少し呆れたような柳川さんの視線から、そっと目を逸らす。窓に吸い込まれたわたしの瞳は、地平線に噛みつかれた太陽の姿が流れ行く雲の内側へ隠れたことに今さら気づいた。明度を失っていく世界は茜から紅、紫へ転がり落ちていく。四分の一しか見えない天球がオパールみたいに渦巻いて、ただの夜に塗り潰されていく。それがわたしにはとても寂しくて、恐ろしくて。
「舟本さんにね、手伝ってほしいの……」
その声はいやに平坦で。薄暗さを増していく秋の入口の暗闇で、妖しい蛍のように宙を舞ってわたしの肺を染め上げて、突き刺した。何を、と問う前に訪れる言の葉に、きっとわたしは酩酊したんだ。
「――密室事件の、犯人探し」
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