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わたしは特に推理小説に明るいわけではない。読書は人並みにはする程度で、いわゆる本の虫といった人たちに比べたら実に浅いものだ。流行りの本に手を出すのも億劫で、もっぱら人に勧められた本くらいしか手に取らない。そして、わたしの周りに推理小説の熱心なファンは残念ながらいなかった。まあ、シャーロック・ホームズくらいなら小学生の頃に手に取ったことぐらいはあるけれど。クリスティは読んだけど、わたしには少し荷が重かったように思えた。
そんなわたしに推理の手伝いをしろというのだから、柳川ゆかりというこの女子生徒は他人に無茶振りをして慌てふためくさまを眺めて楽しむ悪癖があるに違いないとすら思える。もちろんこれは恨み言だけれど、そう思うくらいの自由は欲しい。下校時刻をとうに過ぎて、最後らしき生徒の集団が校門を走り抜けていくのを眺めて、わたしはため息をあからさまに吐き出した。
飛雄祭の準備期間の部活動は制限されているし、ましてや今日はその前日だ。すべての部活動は休みを入れているし、全日が明日の飛雄祭に向けて慌ただしく準備に駆け回っていた。運動部は全休だが悲惨なのは文化部で、明日の本番に向けてどの部も準備に追われていた。かくいうわたしも、クラス出し物である和太鼓演奏のために朝からバチを握りしめ、楽譜とにらめっこし全体リハーサルを数度繰り返して疲労困憊に至るくらいに張り切っていたわけで。リズム感が特に優れているわけではない、わたしを含めたクラスメイト数人にとっては、今年のクラス担任が音楽教諭の安土だったことはちょっとした不幸だった。
――うん、状況を整理しよう。
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