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苦々しい目つきで、砂を噛むように俯く柳川さんは、少しでも目を離せば部屋の隅の暗がりに呑まれ消失してしまいそうに見えて。わたしは中古の机から腰を上げてツカツカと歩み寄る。当惑した顔の柳川さんを引っ張って、窓まで袖を引きずって行く。
「……なに、舟本さん。クラスメイトを悪し様に言われたのが気に入らなかったワケ? そんなに連帯意識の強い人だとは思わなかったな」
「……斉藤さんと奈良さんの楽器は拍子木。サイズが小さいから各自でバッグに入れての持ち歩きが許可されてて、二人ともこの準備室に寄る理由が存在しない。教室は準備室より下の階だからね。風見くんは科学同好会に所属しているから、今ごろ連行されて五階中央校舎の化学実験室で出し物用意に追われているはず。かなりの面倒臭がり屋らしくって隣のクラスの水戸部さんがキレてたの、見かけちゃったから。場所的にこことは正反対に近いし」
足元のバスケットボールの籠を、半ば蹴飛ばすように退ける。堆積していた埃が舞う。
「諏訪くんは……確証はないけれど、教室に戻っているはず。それは柳川さんも、嫌になるほど解っているんじゃないの……」
引っ張る袖の向こうの手首が、びくりと震えた。止まりそうになる脚を一歩、前へ踏み出す。本物の景色を見せなければ、きっと彼女の輪郭すらこの手から、抜け落ちてしまうから。わたしは息を吐く。吸い込む。言の葉は人を殺めるものだと分かっていても、わたしたちは言葉を交わさずにはいられない。
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