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校内放送で流れてる『ローマの祭り』の曲が終盤に向けて盛り上がっていく。クソが。俺はなおもゴミをつめる。朝から俺のゴミ拾いの邪魔してきたくせに何言ってんだ、この女は。
「君は、他の人の前では愛想笑いをしていたが、私の前では本音をもらしてくれていたよな。そんな君が昨日、無造作に渡してきたこの紙くず」
女は紙くずを広げた。そうか、広げるんだな。
「まさか、私へのラブレターだったとはな。15cm四方の紙によくまあ、これだけ愛と熱のこもった言葉を並べてくれたもんだよ。しかも私にわたす直前で丸めて、捨てとけ、とはな。どこまでも可愛いやつだよ、君は」
そんな黒歴史を掘り返してくるんじゃねーよ。
「15cmの紙くずに並べられた言葉に私は刺されたよ。それこそ、ナイフよりもするどく」
『ローマの祭り』の曲が終わった。そのとたん、漫画研究会がイラストに使っていた赤、青、黄色、緑のインクが大量に教室にこぼれおちてきた。ローファーが大量に散らばり、野球部の具材が転がり、サッカー部のオレンジと白と黄色のスーパーボールが教室をはねまわり、バスケットボールがはね、茶道部の緑の茶が教室中にこぼれた。校舎の遠くでフラメンコの足音が響き、吹奏楽部のファンファーレ音が遠くに響き、バンドのギターが風の音と共にうめく。風が吹き、教室中に色とりどりの色紙が舞った。校門のアーチの花が飛び散り、教室中にバラやヒマワリやハイビスカスの花が散らばった。
「クソが!ゴミが増えたじゃねーか!」
頭から色とりどりのインクと紙吹雪をかぶった俺は、思わず叫んだ。
「ああ、それが文化なんだよ。それが青春なんだ。一緒に片付けよう」
女も頭から色とりどりの花とインクと色紙をまとっていた。そんなひでえ恰好で、なんでそんなに笑顔になれんだよ。満面の笑みで手を差し出してきた女。クソが、俺はこんな女に気持ちを乱されたくねーんだよ、クソが。
「当たり前だ」
「あらためて追加の問題だ。君は私のことをどう思ってる?」
「好きに決まってんだろーが!言わせんじゃねーよ!」
「正解。私もそんな君が好きだ」
「こんなクソみてーなハッピーエンド望んじゃいねーんだよ!」
俺はそう叫びながら泣いた。今年のゴミ拾いボランティアは2人なんだなと思って泣いた。
(終)
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