うぜえ文化祭

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ああ嫌だ嫌だ。校舎全体が浮足立っていて、そこら中で文化祭の準備をやっている。 下駄箱で上履きに履き替えたところで目に入ってきたのはフラメンコ集団だ。カスタネットを持った赤やオレンジの衣装の女達が廊下でフラメンコのステップを踏んでいる。音楽は『カルメン』だ。この女は、フラメンコダンサーどもの間をぬけながらスタスタと前進する。練習の邪魔だとか、考えねえのかよ。気性が荒いカルメンでもひくわ、この足速な歩き! 「第2問。私が好きなクラシック曲は?」 横目で俺を見ながらの次の問いだ。 「『カルメン』」 『カルメン』の曲に合わせてフラメンコやってる女子どもの横をぬけながら俺は答えてうやった。 「ハズレ」 「じゃあ知らねーわ、クソ野郎!『剣の舞』でも聴いてろ!」 「惜しいな。『ガイーヌ』だったら『バラの娘たちの踊り』のほうが好きなんだ」 「『バラの娘たちの踊り』って、てめーは!バラというより雑草だろうが」 口ぎたないことを言っている気もするが、まあしょうがない。こんな女のペースに巻き込まれるようじゃごめんだ。音楽室から吹奏楽部の練習音が聴こえてきた。まさに『バラの娘たちの踊り』の練習中だ。クラリネットのしゃれたお嬢っぽい旋律が、余計にむかついてくる。トランペットの歯切れよさも怒りの源だ。 「私は、文化祭が好きなんだよ。みんなが祭に向けて色々な準備をしている。音楽室から流れてくるトロンボーンやホルンの音を聴いて、わくわくしてこないか?どこかの教室から聴こえてくるギターやベースの音に青春を感じないか?」 「感じねーわボケ!だいたいテメーは単独行動人間じゃねーか!何も部活やってねーし、集団行動大嫌い派だろうがよ!文化祭好きとか言ってんじゃねーぞこの根暗!」 我ながらよくまあこれだけ言葉が出るもんだ。女の微笑が余計にイラつかせる。
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