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「こうやって校舎を歩いているだけでも面白いもんだよ」
「面白くねーわボケ!」
また、この女が足早に歩き出す。歩くのはえーんだよ、クソが!
はいはい、茶道部が喫茶をやる準備をしてます、和傘が綺麗です、着物がきれいです、はいはい。
はいはい、漫画研究会が文化祭に向けて大きなイラスト描いてます、はいはい、うまいうまい。
はいはい、野球部が甲子園グランド意識した焼きそばの準備してます、サッカー部がサッカーボール風のスーパーボールすくい喜々として用意してます、バスケ部が女装喫茶でダンクきめてます。
はいはい、みんな楽しそうですね。みんな青春な顔してますね。うん、いいんじゃねえの。そうやって青春を費やしてろよ、クソどもがよ。文化バンザイだよ、みんな文化的です、はいはい。校舎を歩き回りながら、俺はどの風景にも怒りを感じていた。俺と同程度の速度で歩く隣のこの女は何が楽しいんだ?妙に楽しそうな表情しやがってクソが!目はすわってる癖に口元が笑ってやがる!
「君は、本当に怒りにまみれた表情をしているんだな。もっと笑えよ」
「てめえと歩いてて笑えるかよ、クソが!俺は忙しいんだよ!てめえの相手もしたくねーし、文化祭の準備とかもしたくねーし、青春もしたくねーんだよ!」
クソが!なんでこんな女と文化祭前日に出くわさなきゃならねーんだ!
「お、放送委員会が良い仕事をしているぞ。校内に流れてる音楽よく聴いてみろよ。次の問題はこれだな。この曲のタイトルは?」
「知らねえ。『エリーゼのために』」
「バツだ。まったく君の答えは面白くもなんともないな。正解は、『ローマの祭り』の主顕祭だ。この曲は、まさに祭の喧噪を表現している。トロンボーンのグリッサンドからの流れが好きなんだ、私は」
ああ、確かに何だかガチャガチャしたクラシック曲が聴こえてきますわ。はいはい、祭の曲だったんですね。良いですね。文化祭らしくていいですね。
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