0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
この三つの時代__創世期と戦乱期の間にも長い停滞期は存在したが、何かが起こった訳ではない(強いて言うなら人間が賢くなった)__を経て、今現在は停滞期とも戦乱期とも言えない平和な時期に突入している。
これを平成期と呼んでいる。平和に成り立っているという意味だ。
この世界は安寧を手に入れた。いや、安寧を手に入れてしまったと言った方が正しい。
人間は度を越えて悪さをしなくなり、魔物はこの世から消え、食糧不足には悩まされず、どの家庭に生まれても一定の生存権を得れる__そんな世界がここに誕生したのだ。
ではこれから、この世界は何を目標に創られていくのか。何をするためにこの世界は存在しているのか。世界はどう変遷していくのか。このまま生温い世界に入り浸るのか。はたまた煮え湯のような苛烈な世界に逆戻りするのか。
この答えは、"何もしない"だ。人間は何もしなかった。
人間は肥え、数をどんどん増やし、技術をどんどん高めて、動かない世界を創り上げた。
それはある種の理想だ。何をしなくても何か出来ていると錯覚するこの世界は、ある意味理想郷そのものだ。
だが、そのために人は狂い始めた。ネットワークという物が広がり、何処にいても人と関われるようになった。
結果として、人々は刺激を求めるようになった。曲がりくねった感情を、薄っぺらい文字に載せて世界に発信するようになった。
堂々巡り。屈折した文字はやがて、弧を描くようにして自分に戻って来るのだから。
だから世界はヒーローとヒールを生み出した。
ヒーローとヒールを生み出す事で、世界は恐怖と救いを手に入れた。
ヒーローはある時、少年を守る盾となり、そして剣となる。
ヒールはある時、物を盗む盗人になり、女を襲う強姦魔になる。
ヒーローはまたある時、飛んでった風船を取る優しい人となり、ヒールを成敗する正義の味方になる。
ヒールはまたある時、人を殺す悪人となり、ヒーローに殺された死人となる。
最初のコメントを投稿しよう!