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――ピンポーン
「はぁい」
ピンポンピンポン…………
「…………うるさ」
そしてその夜の安寧を切り裂くように連打されるドアのチャイム。主はすぐにわかる。
「兄さん……わかったから、本当に近所迷惑」
まだご飯を飲み込んだばかりなのに、玄関に行ってドアを開けると風のように僕に抱きついてくる。
だから、僕は梨世ちゃん以外受け付けないんだけど。
「なおーっ! こども園オープン日決定記念パーティやろうよ~」
「……僕の幸せの夜ご飯を邪魔しないでくれない? 今何時だと思ってるの? ここ日本だからね」
「あははっ、禅さんこんばんは」
「あ、梨世さんこんばんは~!」
そしてこども園の運営は兄さんだっていうのに。
だけど……この自由過ぎる兄に出会えたことは、血の繋がった兄弟がいたってことは、僕にとっての紛れもなく嬉しい出来事だった。
「禅さん、コーヒーでいいですか?」
「もちろーん! あ、ブラックね」
「わかってますって!」
梨世ちゃんももう兄さんの扱いに慣れたもんで、こんなにも馴染んで、僕の過去を受け止めてくれる。
「こんな時間にコーヒー飲んだら俺寝れないかもっ」
「兄さん……ニヤニヤしながら言うのやめて」
こうして、僕と梨世ちゃんの周りに……兄さんがいることだって、自然になってくるんだろう。
そのうち紗柚ちゃんと結婚して、幸せに暮らすんだろう。
「……ねぇ、尚くん」
「ん?」
「私がいつか言ってた……禅さんと紗柚ちゃんも一緒に食卓を囲う未来は、すぐそこにあるね」
「……うん……!」
あぁ、そうか。
やっぱり……梨世ちゃんが見ている未来は、いつだって幸せだったんだ。
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