9 一歩ずつ

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「タバコは?」 「吸わねぇ」 「僕も。酒は?」 「ウィスキーが一番好き」 「……僕も」 「さすがに、オンナの趣味は違うよな?」 「……そう、みたいだね。良かった」 ふたりして笑い合う。 それが何だか、心地よい感じがした。 「……僕はね、少し梨世ちゃんから聞いたと思うけど10歳くらいで捨てられてしまったあと、当時まだ新宿二丁目のバーで働いていた蘭華さんに拾われて、一緒に暮らし始めた」 「おう」 「んで、学校に行ったことがない僕に全てを教えてくれた御礼に、働きたいと思って始めたのが、ジェンダーレスモデルとして世間にはオトコだと内緒にしてやっていた小暮奈緒。知らない? あれ僕だよ」 「えっ!!?」 「僕らオンナ顔でしょ? 兄さんも多分メイクしてるよね? 昔はそれが都合良かったの」 「……化粧は、んまぁ、眉毛ぐらい?」 やっぱり奈緒ちゃんは有名だったから、それが弟だとわかり心底驚いた顔をしている禅さんに、僕はコーヒーのおかわりを淹れてあげて落ち着かせる。 「僕はね、こんなんでも両親が唯一プレゼントしてくれたクマの洋服を着ているのが、好きだった。僕は洋服とカメラが好きだったから、この仕事は天職だと思った」 「そう、か」 「そうして稼いだお金で、蘭華さんに恩返しをしつつ……まぁ、春乃っていう元カノと同棲したりいろいろあったんだけど、ジュピプロの前身の会社でいちモデルプロダクションのプロデューサーとして働き始めたのね、そこで出会ったのが、ゆうなとまり」 僕の話は、まだまだ禅さんに話し足りないから、もう少し聞いていてほしいな。
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