9 一歩ずつ

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「梨世さんから、火野絆が元旦那って話はチラッと聞いたけど……彼女は何があったの?」 「それは、絆の話にも関わるから僕の口からは軽々とは言えないな。絆は梨世ちゃんを、かけがえのない人として、ずっと愛してるんだ」 「どういうこと?」 「本当に嫌いで別れたわけじゃなくて、でも、彼らの中では全てちゃんと清算してるの、梨世ちゃんも今でも絆を本当に大事に思ってる。彼らは10年も愛し合っていたから」 「……そ、か」 「ま、そんな感じで渋谷で梨世ちゃんを探す日々が始まって、ある日見つけて声をかけたら、旦那と2回目の離婚をしたって言うわけ。何だそれって普通思うでしょ? でも僕は見つけた衝動を止められなくて、彼女に専属モデルの話を持ちかけたってわけ。ジュピプロを作ってから2年、僕が社長に就任する少し前……去年の、夏の話」 「……そんな、最近なのか?」 「兄さんが見たって言った僕のテレビは、僕の社長就任の時でしょ。あのたった何週間か前に梨世ちゃんに出会った」 「……お前、すげぇな」 「梨世ちゃんが、全ての原動力だったから」 思えば当時、春乃と清算出来ていなかった僕と、絆とまだ関係があった梨世ちゃん。 今、こんな風になれているのはやっぱり奇跡だね。 「僕は、日本一のプロダクションを作る。そして、服を……オシャレをたくさんの人に知ってもらう。僕の一番は服、モデルは二番。服をどれだけ輝かせられるかが彼女たちに求めること、そして……僕の使命」 「……」 「僕は、カメラが好き。被写体をどれだけ綺麗に写せるかいつも考えてる。最高の服と、最高のモデル、それを最高のカメラ技術で、フィルムに写す」 そう、やっぱり僕は……服が好き。
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