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「……あとは、今の僕を見ての通りかな。他にもいろいろなことがありすぎたけど。あ、ちなみにイグジスを作ったのは絆です」
「え」
――コトン、と禅さんの手から革張りの、イグジスの手帳とセットになったボールペンが落っこちる。
「そこも、いろいろあって。僕は、ざっと言うとそんな感じです。兄さんは?」
「……なんか、いろいろ衝撃的すぎて何も言えねぇな。俺は……産まれてすぐに施設に入れられた。このオッドアイが、悪魔の子だと言われ……それ以外の理由も知ることも出来ず」
「……じゃあ、一度も一緒に暮らしたことはなかったの?」
「あぁ、多分1日足りとも」
「……そうなんだ」
「施設の人は皆俺に優しかった。その施設も、今となっては俺の知ってる人は誰もいない。学校にも通わせてもらえた。そして15歳になったら、お前みたいに大人に援助されながら、ひとりで暮らし始めた」
「15歳、で?」
「そう、その知らない人の名義でね。会ったことはないんだ。だから誰だかはわからない、見知らぬ子供の俺に優しい優しい手助けをしてくれた人……会ってみたいし、恩返しをしたい」
「……でも、生きられて良かったね」
「あぁ。施設の人を通して家賃を出してもらっていて、そのあと、俺はアルバイトを始めた。新聞配達と、本屋。それが今の俺にはなくてはならないものになった」
「どこに、いたの?」
「まぁ、ここからそう遠くないよ」
「……そう、なんだね」
兄さんの生い立ちもきっと、想像以上につらかったんだろう。
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