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麻酔の気だるさから起きると、世界がぐるぐる回っていた。
「……っう、吐きそ」
「起きたのね、とりあえずでこぼこは焼き切って、レーザーとクリームで上手いことやっといたわ」
「……本当にありがとうございました」
「まだ安静にね」
「……はい」
白衣を着て治療していた姿から、一気にいつもの冥賀社長に戻る様子はあまりにも不思議な光景だった。
「絆ね、墨入ってんの」
「えっ?」
「あの人の、背中」
「……知らなかった」
そして、そんなことも教えてくれた。
きっと、冥賀社長が入れてあげたんだろう。
「早く、梨世ちゃんに知らせたい」
「そう言うと思って、呼んだわ。そろそろつくんじゃないかしら?」
「ひとりで?」
「それも見越して、星田さんも呼んだわ。あなた、梨世さんだけで出歩かせるの禁止でしょうから」
「よくわかってますね」
「こないだご飯食べたときに察したわ」
――ピーンポーン
雑居ビルの一室を借りて運営しているここは、絆と冥賀社長の家から近い場所にある。
「梨世さん、星田さん、いらっしゃい」
「映美さん!」
「尚がお世話になりました」
梨世ちゃんの声が聞こえる。
早く、会いたい。
「梨世ちゃん」
「尚くんっ、大丈夫!?」
ぼやけた視界の中で梨世ちゃんだけははっきりと見える。キミは僕の頬を両手で包んでくれて、頭を撫でてくれる。
「ふふ。背中、見るの楽しみ」
「ねっ」
こうして、一歩ずつ進んでいくのがきっと僕たちの未来を明るく照らしてくれるんだろう。
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