14 灰色 

2/11
348人が本棚に入れています
本棚に追加
/541ページ
――「……木暮さん、生活保護は最後の手段と考えてくださいね、援助してくれる当ては? まぁまだ全然働けるご年齢だと思うのですが――」 パートが、上手く行かなかったの。 なぜかって? 私が働いたことのないまま、こんな歳になってしまったから。 いきなり働くなんて無理。 「大和さん」 「寿菜?」 「……今更になって、いろいろと後悔してる」 「俺と一緒になったこと?」 「そんなわけないじゃない、大和さんと一緒になれたことは私の人生で一番の幸せよ――」 ――――…… ――…… 「禅社長、日本の……役所からお電話です」 「……は? なんで?」 「知りませんよ」 俺が電話を代わると、本人確認をされた。 木暮禅さんですか、と言うことと。 窓口に……木暮大和さんと寿菜さんと言う方が来ています、と言うこと。 「はい、僕は木暮禅と申しますが、そちらの2名は存じ上げません」 ――「そうですか、困りましたね……」 「……なぜ?」 ――「生活保護を受給されたいようなのですが、ご家族がいるそうで、ご家族がいる場合にはその方にまずは援助の相談を、とお伝えしたところ、息子とどうにかして連絡を取りたいと仰っているのですが、人違いでしたら申し訳ありません」 「大変な方ですね、早く……見つかるといいですね」 ――ツー、ツー…… 「…………」 ――ボト、と電話が床に落ちた。 「…………今更、何」 俺の掴みかけた幸せに、チク、と針を刺されたような気がした。
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!